安部麗子(あき渋谷店店長)所蔵
季節はめぐり、玄冬の季節となりました。
厳寒の中にも、その季節ならではの楽しみもあります。
幼き頃住んでいた家は高台にあり、崖下には小川が流れ、その向こうには小高い丘がある自然豊かな環境でした。
私は自分の部屋の小窓から、ぼんやりと遠くの四季折々の景色を見るのが好きでした。
ある年のお正月、雪がこんもりと積もって、静寂な白一色の向い側の丘に、若草色の「とんび」を纏った老人が目に入ったのです。その人以外、あたりに人影はなく、しんと静まり返っていました。
白い雪を背景に若草色の色彩が映えて綺麗!と見ていたら、その人がこちら側の小高い丘に反射して良く通る声で朗々と詩吟を始めたのでした。詩吟の意味は全く分かりませんでしたがしばし聴きほれてししまったのは言うまでもありません。
その時の光景が昨日の事のように目に焼きついています。
そんな記憶の影響か、姉妹店の「おりいぶ」で発見した、この「銀嶺の訪問着」に心惹かれました。着用時期は、季節的に冬から早春の期間限定のおしゃれな着物です。
◆水墨で遠くに雪を抱いた山脈、近景には冬木立が遠近法で描かれています。
春を待つ「冬木の芽」にすでにやわらかい緑の若芽が宿っているかのように見受けられます。
◆着物を広げると一幅の絵になります。
◆前身頃の胸から袖です。
◆後身頃の肩から袖です。
◆見事な筆勢の落款です。
◆葉を落とした冬木立の迷いの無い線の勢いに作者の並々ならぬ画家としての力量を感じます。
◆どこを切り取っても絵画です。額に入れたくなります。
◆この着物の制作者征夫さんについて
私なりに調べましたが、分かりませんでした。
どなたか情報をお持ちの方がいらしたら、ご一報頂ければ幸いです。
個人的な見解ですが、征夫さんの征は出征の征であろうかと考えます。
以前、戦時中にこのお名前が多くつけられたと聞いた事があります。
征夫さんは昭和10年代のお生まれではないかと想像していますが・・・・。
着物作家というよりは優れた画家であられたのではないでしょうか?
ともあれ、私の疑問が解けるとうれしいです。
☆2月は梅の小紋をご紹介の予定です。
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